論評:Jacques Vallee の『未確認飛行物体の地球外起源を否定する5つの論拠』


前置き

- 先日の過去記事で Jacques Vallee の『未確認飛行物体の地球外起源を否定する5つの論拠』の DeepL 訳を up した。  DeepL 訳: Jacques Vallee,『未確認飛行物体の地球外起源を否定する5つの論拠』 (2022-07-19) - 忘れないうちにその論評というか雑感を記録しておく。

雑感 1

- 「地球外起源を否定する5つの論拠」は今となっては古典ともいえる画期的な指摘なので、確かにそうですね…という感じ。 - 「制御システムとしての UFO 現象」("the UFO phenomenon as a control system" )という Jacques Vallee の仮説、
70年代半ば、私はUFO現象を制御システムとしてとらえ、その制御が人間によるものか、宇宙人によるものか、あるいは単なる自然現象であるかの判断は留保することを提案した。物理的あるいは社会的な事象を支配するこのような制御システムは、私たちの身の回りに溢れている。それらは、自然を支配する陸上、生態系、経済のバランス・メカニズムに見出すことができ、そのいくつかは科学によってよく理解されている。この理論には2つの興味深いバリエーションがある:(1) エイリアンの知性(おそらく地球ベースの)が、新しいタイプの行動に向けて私たちを訓練している可能性がある。それはストリーバー(1987)の「訪問者現象」、あるいは「ガイア」仮説のような「超自然」を表しているかもしれない。(2)あるいは、同じテーマをユング流に解釈すれば、人間の集合的無意識は、20世紀の未曾有の危機を越えて、我々自身が長期的に生存するために必要なイメージを、自分自身の前に投影しているのかもしれない。 In the mid-70's I proposed to approach the UFO phenomenon as a control system, reserving judgment as to whether the control would turn out to be human, alien or simply natural. Such control systems, governing physical or social events, are all around us. They can be found in the terrestrial, ecological and economic balancing mechanisms that rule nature, some of which are well understood by science. This theory admits two interesting variants: ( 1) An Alien intelligence, possibly earth-based, could be training us towards a new type of' behavior. It could represent the "Visitor Phenomenon" of Strieber (1987) or some form of "super-nature," possibly along the lines of a "Gaia" hypothesis. (2) Alternately, in a Jungian interpretation of the same theme, the human collective unconscious could be projecting ahead of itself the imagery which is necessary for our own long-term survival beyond the unprecedented crises of the 20th century.
 はピンとこない。そもそもガイア仮説自体が根拠に欠け胡散臭いし(*1)、Jung 心理学も UFO 現象の解明の道具としては無力すぎる。

雑感 2

- Jacques Vallee の問題の論文で私が唯一、注目したのは以下の箇所。
イギリスの研究者ランドルズは、拉致被害者の談話を分析すると、一貫して、被害者が通常の現実から離れる時間の区切りがあることがわかると強調している。この境界の「向こう側」では、通常の時空物理学はもはや適用されないように思われ、患者は通常の世界に戻るまで明晰夢(あるいは明晰な悪夢)の中にいるような動きをするのだという。ランドルスはこの現象を "オズファクター "と呼んでいる。この観察に基づき、知覚者の物理的現実のビジョンを変化させ、正常な状態の他の目撃者にも見える実際の痕跡や発光現象を発生させる、驚くべき精神的機能の状態が存在するという理論が成り立つだろう。 British researcher Randles has stressed that the analysis of the discourse of abductees consistently reveals a breakpoint in time, after which the percipient leaves normal reality behind. On the "other side" of this boundary ordinary spacetime physics no longer seems to apply and the percipient moves as if within a lucid dream (or indeed a lucid nightmare) until returned to the normal world. Randles calls this phenomenon the "Oz Factor." Building on this observation, one could theorize that there exists a remarkable state of psychic functioning that alters the percipient's vision of physical reality and also generates actual traces and luminous phenomena, visible to other witnesses in their normal state.
  - この箇所の指摘は極めて重要。特に、   ・知覚者の物理的現実のビジョンを変化させ、正常な状態の他の目撃者にも見える実際の痕跡や発光現象を発生させる、驚くべき精神的機能の状態  は、(「実際」を削除すれば)私の共鳴作用(=意識障害が生み出した幻覚を近隣者が共鳴作用によって共有する現象、ヒッチハイカー現象もその亜種)とほぼ同じ意味になる。 - ただ、細かなことを言えば…。Jenny Randles は   ・UFO が Oz factor を生じさせている(=時空間を変容させている)  と見ているようだが、   ・(EMF 異常などが)意識障害を引き起こし、それを Oz factor として体験者は実感している。つまり体験者は自分の意識の認知機能の低下・混濁を、外界の変容と誤認している  のだと私は判断している。

(*1)

- そもそも、ガイア「仮説」はいわゆる学説や仮説のレベルには達しておらず、漠然とした比喩のレベルでしかない。いわば、学童向けの譬え話や勧善懲悪の教訓話のようなもの。 - ガイア仮説を受け入れると、地球単独ではなりたたないので太陽や月もふくめざるを得なくなる。太陽系も単独では成立しないので銀河系、銀河系団とどんどん膨らむ。逆に、近所の池でさえ「生命体」と見なさざるをえなくなる。 - つまり、生命という明確な定義が困難な複雑なシステムにつけこんで成立したオハナシが、ガイア仮説。同様に意識という明確な定義が困難な複雑なシステムにつけこんで成立したのが精神世界のヨタ話。 - このような意味で、ガイア仮説は下で批判した Richard Dawkins のミーム仮説や「利己的な遺伝子」と似ている。
・Richard Dawkins のミーム説は「ミスリーディング」とか「アナロジーが間違っている」というより、そもそも自然科学(生物学)の学説たりえない…と私は考える。 ・その理由を簡単に比喩で説明すると、Richard Dawkins は「病原菌と穢れ」を混同している。 ・病原菌は客観的対象として実在するから、生物学によって科学的な分析が可能だった。一方、民俗学や比較宗教学などで扱われている「穢れ」は客観的対象としては実在しないから(生物学はもちろんのこと)自然科学の研究対象になりえない。 ・この対比において、ミーム説はその対象もプロセスも病原菌の側ではなく、「穢れ」の側に位置している。つまり、ミームは客観的実在ではなく、あくまで解釈する人間の意識の中に抽象的かつ曖昧な概念として比喩的に存在しているに過ぎない。 ・Richard Dawkins は彼の専門である生物学の学説としてではなく、「生物学とは全く無関係だと明記した上で」民俗学や社会学の学説としてミーム説を提唱すべきだった。言うまでもないが、民俗学や社会学は「本物の」サイエンスではない(し、それを目指すべきでもない)。 ・ついでに言えば、Richard Dawkins の「利己的な遺伝子」の説もミーム説ほどではないが、危ういほど穢れの側に接近しすぎており、自然科学の学説たりうるかどうか疑問。 ref: John R. Searle(ジョン・R.サール)のミーム説批判 (2015-08-12)
(2022-07-20)

初出

  論評:Jacques Vallee の『未確認飛行物体の地球外起源を否定する5つの論拠』 - http://news21c.blog.fc2.com/blog-entry-19724.html (2022-07-20)

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