「人間は言語を使わなければ思考できない」という俗説をシンプルに反証する

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Update

・(2017-08-06 追加)

はじめに

・過去記事で   思考するには言語が必須か? → No (+追加2) (2017-07-17)  という記事をダラダラと散漫に記述したが、もっとシンプルかつラディカルな反証を思いついたので記録しておく。 ・たぶん、この反証は   ・(a) 言語関連の専門家には既に常識となっている、 or   ・(b) 素人にありがちな根本的な誤りが含まれている、  のどちらかだろうとは思うが、なにせド素人なので判断できない。 ・上の (a) だとすると Wittgenstein あたりがとうの昔に片付けているような気がする。 ・反証のキモの部分を先に述べておく。議論の細部を大幅に省略し、微妙な部分(特に No の部分)もバッサリとカットして単純化している分、分かりやすいはず。

反証の核心部分

・「言語を使う(=デタラメではなく、文法に合致した言語を組み立てる)事それ自体」も思考作業なのだろうか? この疑問に対する Yes/No の二通りの答えを検討する。 ・Yes → 「言語(1)を文法に合致した形で組み立てる」という思考作業自体も言語(2)を用いている筈。その言語(2) も同様にして言語(3)を用いる筈。同様に…。無限後退が発生。矛盾で破綻。 ・No → 「言語を使う事それ自体」は思考ではない…という主張となる。これは明確な自己矛盾。 ・このように Yes, No のどちらの場合も矛盾を招く。よってタイトルの俗説は反証された。

想定される反論:言語即思考説

・上の Yes の場合に無限後退の矛盾は生じない…という反論が想定できる。その反論は次のような形をとるだろう。
・「言語を使う(=デタラメではなく、文法に合致した言語を組み立てる)事それ自体」がそのまま思考内容そのものだ。つまり、   ・(x) 思考内容と   ・(y) それを言語で表現したもの  という2つの異なったもの(x, y)があると見なすのは誤り。この2つは同一であり差異がない。 ・したがって Yes の場合に無限後退の矛盾は生じない。
・このような反論を「言語即思考説」と呼ぶことにする。 (2022-09-04 begin) - このような「言語即思考説」は失語症患者や後述の分離脳患者を調査した多くの医学調査結果によって脆くも崩壊する。 (2022-09-04 end)
(2021-07-01 begin)

補足

思考に言語は必須ではない。それを示す複数の証拠データがある。 (途中:その2) (2020-10-25) (2021-07-01 end)

履歴

(2017-07-26) 作成 (2017-08-06) 追加 (2021-07-01) 補足を追加

初出

「人間は言語を使わなければ思考できない」という俗説をシンプルに反証する (途中:その2) (2017-08-06)


関連


・世間によく知られた医学的事実(下)が、「思考に言語は必須ではない」ことを明瞭に示していることに気づいたので追加しておく。

医学的事実

分離脳(ぶんりのう、英: Split-brain)は、脳にある2つの大脳半球を接続している脳梁が、ある程度切断された状態を示す一般用語である。この状態を生み出す外科手術のことを脳梁離断術と呼ぶ。この手術が行われることはまれではあるが、大抵の場合は難治性のてんかんの治療として、てんかん発作の猛威を減らすことにより、物理的な損傷を防ぐために行われる。 分離脳となった患者は、その患者の左視野 (つまり両目の視野の左半分) に画像を呈示された際、それが何の画像なのかを答えることが出来ない。この理由は、多くの人々において言語優位性半球は左半球なのだが、左視野にある画像は脳の右半球にのみ伝えられるためと考えられる。2つの大脳半球の連絡が切断されているため、患者は右半球が見ているものを答えることが出来なかったのだ。しかし、患者は左視野にある物体を左手で掴んだり、認知したりすることが出来る。これは左手が右大脳半球によりコントロールされているためである。 初期の分離脳の研究はロジャー・スペリーによって行われ、マイケル・ガッツァニーガ (Michael Gazzaniga) によって続けられた。この研究成果により、脳機能局在論の重要な理論が生まれることとなった。 分離脳の患者は時々、自らの行動に対する合理的な説明として作話を行うことがある。それは本当の動機が、言語的にアクセスできない右大脳半球で生み出されたため、説明不可能であるからといえる。 ref: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%86%E9%9B%A2%E8%84%B3

上の医学的事実から言えること

・事実:分離脳患者の右脳は言語を使えない。 ・「思考に言語は必須だ」という(分析哲学者などが宣う)俗説が正しければ、その患者の右脳は思考していないことになる。だが、実際の医学実験結果(上)はそれを明白に否定している。

コメント1

・分離脳患者の実験はノーベル医学賞の対象でもあるし、昔からよく知られている。だが、私は今までこの分離脳患者の実験結果が「思考に言語は必須ではない」ことを明瞭に立証していることには気づかなかった。迂闊というか鈍いというか。 ・最初の記事から 3年を要したが、ようやく確実な医学的根拠に基づいて「思考に言語は必須ではない」事を論証できたと思う。 ・たぶん、私の常識が古いだけで、世間では「思考に言語は必須ではない」ことくらいは常識化しているような気もする。
ref: 思考に言語は必須ではない。それを示す複数の証拠データがある。 (途中:その2) (2020-10-25)