関山守彌、『日本の海の幽霊・妖怪』に記載された「魔性の火」(不知火)の謎を解く

(left image source : 不知火 (妖怪) - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8D%E7%9F%A5%E7%81%AB_(%E5%A6%96%E6%80%AA))

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前置き

以下の引用にある「魔性の火」の正体を解明することを試みる。

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26頁

関山守彌、『日本の海の幽霊・妖怪』、中央公論新社、2005-06

なお、この「魔性の火」は「不知火」として知られている現象と類似している。よって、不知火現象(の少なくともその一部)は後述の機序で発生している可能性がある。

文字起こし

以下、"Text Extractor (PowerToys)" による文字起こし。

海ばかりでなく、陸でもこうした区別の仕方はあった。井之ロ章次氏の「日本の俗信」によれば、前方に火が見えたとき、目の前に手を伸ばして親指を一本立てる。そうすると、普通の火ならば指の両側から後光が出るが、魔性の火の場合は指にかくれて見えない。また、牛に荷を積む時の型の棒の叉の間から見ればよいとある。

正常な船と船幽霊の見分け方は、Y 字型の人間の股からの逆見、二本の早緒からののぞき、六文銭や着物の袖からののぞき、また、目の下を押さえるのも、同じ効果をねらってのことである。

「魔性の火」の正体

上の引用箇所の黄色で強調した部分――普通の火ならば指の両側から後光が出るが、魔性の火の場合は指にかくれて見えない――を整理すると
  ・「魔性の火」は「普通の火」に比べ、その周囲の大気中での散乱の割合が著しく低い
ということになる(*1)。

以下、私の仮説。この現象は、散乱光の偏光で合理的に説明がつく。

この現場には EMF 異常により水平方向の強い電界が存在していた。この「魔性の火」は現場の EMF 異常によって生じた orb で、orb の発する光も水平方向に偏光していた。

季節と気温にもよるが、海面付近の大気には多量の水蒸気が含まれている筈。そして現場に強い電界が存在すれば、水蒸気は分極する。この状況で水蒸気による orb の光の散乱を検討すると次のようになる。

水平方向に分極した水蒸気(下図の中央)による、orb の光(下図の S)の水平方向(下図の X 方向)への散乱は(理想的ケースでは)ゼロとなる。

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この原理の詳細は添付の偏光に関する参考文献を読めば理解できる筈。

蛇足

なお、orb の光が垂直方向に偏光している可能性は無視できる筈。垂直方向に偏光していれば海面での反射光が著しく低下することになるがそのような現象の報告は引用元の 関山守彌、『日本の海の幽霊・妖怪』には全く記載されていない。水面での反射が無ければ、それはすぐ目を惹きつけ
  UFO/orb が放つ「周囲を照らさない光」の謎を解く (途中 2) (2023-05-22)
のような目撃事例となる筈。

上記仮説の問題点

普通、地上付近の大気中の電界は垂直方向になっている。この事例ではそれが水平方向になっていると仮定している、なぜ水平方向に強い電界が生じたのか、その機序が説明できていない。

(*1)

この箇所に続く

また、牛に荷を積む時の型の棒の叉の間から見ればよいとある。 正常な船と船幽霊の見分け方は、Y 字型の人間の股からの逆見、二本の早緒からののぞき、六文銭や着物の袖からののぞき、また、目の下を押さえるのも、同じ効果をねらってのことである。
という記述については、それらの方法によって「具体的にどう見えるのか」という説明が完全に欠落しているので今回の考慮からは除外した。

参考文献

2.3 散乱光の偏光
分子に光が照射されると、分子は光の電場によって分子内の正負の電荷がそれぞれ反対方向に力を受け、このため、分子内に電荷の偏りが生じる。すなわち、正負の電荷の分離によって分子に分極(電気双極子)が生じる。

その分極が光の電場の振動に従って振動するのでこの分極の振動によって、分子から2次波として光が放出される(分子による光散乱)2)。もし、結晶のように分子が規則正しく並んでいる場合には各分子から放出される2次波も互いに干渉し合い、その結果として位相の揃った屈折波ができるのです3)。

一方、分子が不規則にばらばらに存在するときには放射される光もばらばらになり、いわゆる、散乱光が生じます。図 2.7 のように分子に、Sを光源として、中央にある分子に偏光した光が入射すると、分子の分極は光の電場と同じ方向に振動するので、2次波である散乱波の電場も同じ方向に振動する。

例えば、図 2.7(a)のように、光源S からY方向に伝搬するZ方向に偏光した光が中心にある分子にあたると、分子はZ方向の電気双極子を誘起する。この電気双極子の振動によって電気双極子から放出される電磁波は電場がZ方向に振動する光である。それゆえ、光は横波であるからZ方向に伝搬する散乱光は存在しない。また、図 2.7(b)のようにX方向に偏光した光が分子によって散乱されるとY、Z方向には散乱されるが、X方向に散乱される光はない。

それ故、Y方向に伝搬するランダムに偏光した光が中心の分子で散乱されるとX方向には、Z方向に偏光した散乱光だけが伝搬することになる。すなわち、散乱光に偏光現象が起こるのである。この現象は自然界で容易にみられる。太陽と空の一部分と観測者をつないだ角度が 90°となるような空の部分を、偏光板を通してみると偏光板の角度によって明るさに濃淡が現れることがみられるだろう。

これは図 2.7 で、太陽を S、中心分子が注目している空の部分、X 点が観測者である。図から散乱光は 3 点が作る平面に垂直方向に偏光し他散乱光が観測される(図 2.7(a))。一方、平面に平行に偏光した散乱光はないことがわかる。このことから、偏光方向が太陽、空と観測者の3点でできる平面に垂直のとき最も明るくなることが確かめられるであろう。一般には、このように散乱光は偏光しているが、偏光の度合いは空中にある分子の大小、分子の異方性、複数回散乱による偏光解消などに依存している。

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ref: 『偏光』 横浜国立大学名誉教授 栗田 進 : https://www.luceo.co.jp/common/pdf/technical/henkou01.pdf

(2023-06-04)


初出

❑ 関山守彌、『日本の海の幽霊・妖怪』に記載された「魔性の火」の謎を解く (2023-06-04)