Dr. Michael Heiser : 聖書に記載された「悪魔の正体」を解説する
前置き
神学者の Dr. Michael Heiser が彼の著書、"Supernatural Seminar" の主題について、詳しく解説している。
なお、彼は UFO や超常現象、オカルトにも関心が深い人物。
概要
聖書の悪魔と闇の力
このYouTubeの抜粋では、マイケル・ハイザー博士が彼の著書「悪魔:聖書が闇の力について本当に語ること」について語っています。彼は、自身の信仰の旅路、旧約聖書とセム語の研究がどのように彼を今日の研究に導いたかについて述べています。
ハイザー博士は、聖書が邪悪な超自然的存在についてどのように説明しているか、特にエデン、創世記6章、バベルの塔における3つの反乱に焦点を当てているかを説明しています。彼は、悪魔が低級な存在であり、より広範な敵対的超自然的存在の一部にすぎないと強調しています。
また、彼はスピリチュアル・ウォーフェアが「大宣教命令を達成する」ことによって行われると主張し、サタンは一般的なキリスト教徒の生活に必ずしも介入するとは限らず、それよりも「混沌を最大化する」ことに焦点を当てていると論じています。彼はまた、ヨブ記の「サタン」が必ずしも悪魔そのものではないという彼自身の見解についても述べています。
目次
詳細
ブリーフィングドキュメント:マイケル・ハイザー博士の「DEMONS: WHAT THE BIBLE REALLY SAYS」レビュー
このブリーフィングドキュメントは、マイケル・ハイザー博士の著書「DEMONS: WHAT THE BIBLE REALLY SAYS」に関するインタビューから得られた主要なテーマ、重要なアイデア、および事実をまとめたものです。
著者紹介と著書の背景
マイケル・ハイザー博士は、聖書学とセム系言語学のPh.D.を持つ学者です。幼少期にキリスト教の家庭と交流し、高校時代にキリスト教を信仰するようになりました。彼は、聖書の理解における混乱と問題を解決することに情熱を傾け、特に旧約聖書とセム系言語の分野に深く関わってきました。
今回の著書「DEMONS」は、彼の前著「The Unseen Realm」で導入された概念をさらに深く掘り下げたものです。ハイザー博士は、「The Unseen Realm」が予想外の成功を収めた後、より具体的なトピックに焦点を当てることを決め、「Angels」に続いて「Demons」を執筆しました。
悪の起源:聖書における「3つの反乱」
ハイザー博士の著書「Demons」の最もユニークなアプローチは、超自然的な悪の起源を旧約聖書における3つの超自然的な反乱の観点から考察している点です。
- 最初の反乱:エデンの園(創世記3章)
- これは、平均的なクリスチャンが「なぜ世界は混乱しているのか」と問われたときに答える最も一般的な理由です。人間が神に背いたことで、罪と悪が世界に入り込んだと考えられています。
- 2番目の反乱:創世記6章の「神の子ら」の堕落
- 多くのクリスチャンがこの記述を「非神話化」する傾向にあるとハイザー博士は指摘します。しかし、これは「神の子ら」(超自然的存在)が人間の女性と交わり、ネフィリムを生み出したとされる出来事であり、その結果、地上に大いなる悪が満ちたとされます。博士は、この出来事が旧約聖書と新約聖書の多くの箇所に影響を与えていると強調します。
- 3番目の反乱:バベルの塔(創世記11章、申命記32章8-9節)
- この反乱は、特に現代のクリスチャンにはほとんど知られていないとハイザー博士は述べています。一般的な理解では、バベルの塔で人々が傲慢に塔を建てたため、神が彼らの言葉を混乱させたとされています。
- しかし、ハイザー博士は、古代のイスラエル人や第二神殿時代のユダヤ人にとって、この出来事は神が異邦の諸国民を「神の子ら」(神的存在)に割り当てたことを意味していたと説明します。これは、申命記32章8-9節の「いと高き者が国々に相続地を与え、人の子らを分けられたとき、イスラエルの子の数に応じて諸国民 の境界を定められた」という記述の、一部の英語訳にある「イスラエルの子の数」ではなく、死海文書や七十人訳聖書にある「神の子らの数」という記述に注目することで明らかになります。
- この出来事において、神は人類との関係を一時的に断ち切り、諸国民を反抗的な超自然的存在に割り当て、ご自身の民としてアブラハムから新たな家族(イスラエル)を興すことを決意します。この割り当てられた存在たちが、後に偶像崇拝や混乱の原因となり、詩篇82篇で裁かれる対象となります。ダニエル書における「ペルシャの君」や「ギリシャの君」といった世界帝国を背後で操る超自然的な存在の概念も、この申命記32章の視点に由来するとされます。
悪魔と闇の勢力:その定義と階層
ハイザー博士は、彼の著書「Demons」の副題が「聖書が闇の勢力について本当に言っていること」であることの意図を強調します。 「すべての闇の勢力が悪魔であるわけではない」と彼は述べます。「悪魔は非常に特定のカテゴリーであり、ぶっちゃけかなり下位の存在です。」 超自然的な悪の世界には、神とその計画に敵対するはるかに広範な存在が含まれており、これらは上記の3つの反乱にルーツを持っています。
パウロが使用する「支配者たち、権威者たち、力ある者たち、主権者たち、権力者たち」といった用語は、地理的な支配を意味し、地上におけ る地政学的な出来事の背後には超自然的な知性があるという理解を示しています。これらの敵対的な超自然的存在は、神を憎み、人類を憎み、できる限り多くの混乱をもたらそうとします。
サタンと「アドバーサリー」
ハイザー博士は、ヨブ記1章と2章、およびゼカリヤ書3章に登場する「サタン」(ヘブライ語で「ハ・サタン」)が、創世記3章の蛇(悪魔)とは異なる存在であると説明します。
- ヘブライ語では固有名詞の前に定冠詞が付くことはありません。「ハ・サタン」という表現は、それが固有名詞ではなく、「敵対者」や「告発者」といった「職務」を示すものであることを意味します。
- ヨブ記の「ハ・サタン」は、神の神聖評議会における「監査官」のような存在であり、地球上を巡回して情報を神に報告する役割を担っていました。彼はヨブの誠実さを疑うことで「一線」を超えますが、これは神の全知と誠実さを問う行為であり、彼が神に雇われた存在として職務を遂行している様子が描かれています。
- 一方で、創世記3章の蛇は、ヘブライ語聖書では「サタン」とは呼ばれていません。後の第二神殿時代や新約聖書において、この創世記3章の反逆者に対して「サタン」という言葉が適用されるようになったのは、彼が神の計画に「敵対」したためであり、その行動が「敵対者」という役割に合致したためです。つまり、「サタン」は後にこの反逆者の「機能」を指す言葉として使われるようになりました。
- 結論として、悪魔は存在しますが、彼が神に雇われたり、神の「給与計算書」に載っていたりすることはありません。彼らは神に敵対する存在です。
霊的戦いと大宣教命令
ハイザー博士は、霊的戦いについての一般的な誤解を正します。彼は、「部屋に入って悪魔に怒鳴り散らすこと」は霊的戦いではないと述べます。 真の霊的戦いは、「彼らが最も恐れること」によって達成されます。彼らが最も恐れるのは、「終わりの日」、すなわち神の王国が完全に確立される時です。 したがって、霊的戦いの核心は、大宣教命令を成就することです。「イエスが大宣教命令を与えたときに間違っていたわけではありません」と彼は語ります。 「霊的戦いは、信者が全世界に入っていき、一人一人をヤーウェに勝ち取っていくことによって達成されます。」神の王国が成長するにつれて、闇の王国の力は減少します。闇の勢力は、福音の進展を妨げ、信者の生活を混乱させることで、終わりの日の到来を遅らせようとします。
堕落した超自然的存在の贖い
聖書、特にヘブライ人への手紙2章は、救いの計画 が受肉と結びついていると説明しています。神が人間となり、契約を全うし、人類を贖うために来たのは、人間が神の「形」であり、地上の代理人として創造されたからです。人間には、自由な意志と選択の自由が与えられており、これは神の性質を反映しています。たとえその選択が失敗と反乱につながることを神が予見していても、神は人間を創造することを選びました。 堕落した天使や超自然的存在は、この救いの計画の焦点ではありません。ヘブライ人への手紙が「神はどの天使に言われたか」と問いかけているように、計画は人間のためであり、神は人間となることで契約を成就しました。
サタンの関与と信者の生活
ハイザー博士は、サタンがほとんどの人の日常生活に直接関与している可能性は低いと考えています。「もし私がサタンなら、地球を見て『私たちはかなりうまくいっている。一日休んでいい』と言うでしょう」と彼は皮肉を込めて語ります。人類は、大宣教命令を遂行しないこと、罪を犯すこと、そして自己破壊によって、自らを破壊するのに十分な能力と知識を持っています。 サタンは、大宣教命令の成就を遅らせるために、最も大きな影響を与えることができる場所に時間を費やし、混乱を引き起こそうとします。
聖地と悪の場所
旧約聖書には、「宇宙的地理」の概念が存在します。ヤーウェと出会った聖なる場所がある一方で、大いなる悪に明け渡された場所も存在します。 例えば、旧約聖書のバシャンは、ラファ(巨人族の残党)の住処であり、カナン人にとっては冥界への門とされていました。新約聖書時代には、この地にカイザリア・フィリピがあり、イエスが「この岩の上に私の教会を建てる」と述べた場所です。ここは、かつてバアル崇拝の中心地であり、イエスの時代にはゼウスとパンに捧げられていました。また、ここはユダヤの伝承で創世記6章の「神の子ら」が降りてきたとされるヘルモン山の麓に位置しています。悪霊の群れ「レギオン」と遭遇した場所も、バシャンの南部に位置していました。 ハイザー博士は、今日でも世界中には、人々が超自然的な悪に身を委ね、悪の働きが許可され、誘致される場所が存在すると考えています。
罪と悪霊の影響
クリスチャンが悪魔に「憑依される」(所有される)ことはないとハイザー博士は明言します。なぜなら、キリストにある者は「キリストの体」の一部であり、「新しい創造」であり、別の主人に所有されることはないからです。 しかし、新約聖書には「悪魔に機会を与えないように」といった警告や、誘惑と悪魔の働きを結びつける記述が多数存在します。これは、人間の罪深い行動や特定のエンターテイメントへの関与(ポルノなど)が、悪魔 の「影響」や「抑圧」「嫌がらせ」を招く可能性があることを示唆しています。これらの行動は、自己破壊的であり、闇の勢力にとって、信者の生活を妨害する「道具」として利用され得るからです。
聖書学と異世界観へのアプローチ
ハイザー博士は、自身の研究や著作活動において、いわゆる「オカルト」や「UFO現象」「スピリチュアリズム」といった分野にも関心を持っています。これらは、聖書的世界観と物質主義的ダーウィン主義の中間に位置する代替的な世界観として機能すると彼は見ています。彼は、これらの世界観を持つ人々が、教会に行ったり神学書を読んだりすることは決してないかもしれないが、議論の場に着かせることができると考えています。 彼の目的は、彼らの信じる「神秘」や「超越」の存在を肯定しつつ、聖書がそれについて語っていることを、彼らが抱く聖書の誤った認識(カリカチュア)に基づかない、真の学術的視点から再考するよう促すことです。
日常生活における霊的妨害
家庭生活における「霊的戦い」の兆候(日曜の朝の子供たちの癇癪、祈りの時間の邪魔など)について、ハイザー博士は「宇宙的な何かが起こっている可能性を否定しない」と述べます。なぜなら、たとえ些細に見える出来事でも、神が一個人を通して働き、それが何千何万もの人々に影響を及ぼす可能性があることを、闇の勢力も認識しているからです。彼らは、神の計画が成就するのを妨げることに「興味」を持っています。しかし同時に、多くの「妨害」は単に日常生活の通常の経過であり、親はそれが子供の「永遠の運命」を決定するような深刻なものだと考えるべきではないとも述べています。神は常に別の機会を与えてくださいます。
このブリーフィングドキュメントは、マイケル・ハイザー博士の「Demons: What the Bible Really Says」の主要な洞察を網羅しており、彼の聖書学的なアプローチと超自然的な世界観の理解における独自性を浮き彫りにしています。
死霊術は機能したからこそ禁じられた
提供された情報に基づくと、「悪魔を呼び込む行為」というより大きな文脈において、ネクロマンシー(死霊術)が「機能したからこそ禁じられた」という点について、ソースは以下のように述べています。
まず、聖書においてネクロマンシー(死霊術)やその他の類似の行為が禁じられたのは、それらが効果がなかったからではなく、実際に機能したからであると明確に述べられています。神がこれらの行為を禁じたのは、知識を独占するためではなく、人々が欺かれ、危害を加えられることを防ぐためでした。つまり、人々は「向こう側の存在」から与えられる知識を信頼すべきではなく、それが「あなたの領域ではない」と警告されているのです。
この「機能したからこそ禁じられた」という考え方は、より広範な「超自然的な悪の勢力を招き入れる行為」の文脈と関連付けられています。
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許可と勧誘(Solicitation):
- ソースでは、「人々が超自然的な悪に身を委ねる」と、それが「許可と勧誘の場所」になると説明されています。
- 現代の多神教徒やオカルティストも、このような事柄は「何らかの勧誘」がなければ起こらないと述べるだろう、とマイケル・ハイザー博士は指摘しています。これは、ネクロマンシーのような儀式的な行為が、特定の超自然的な存在との接触や影響を積極的に招き入れる性質を持つことを示唆しています。
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人間の行動との 関連性:
- 新約聖書では、「悪魔に居場所を与えたり、誘惑に屈したりする」ことに対する警告が多く見られます。
- これは、人間の行動(罪を犯すこと、自滅的な行動、誘惑に屈することなど)が、悪の勢力による影響、抑圧、嫌がらせと結びついていることを示唆しています。このような行動は、悪魔や闇の勢力にとって人々を傷つけるための「道具」として利用され得るため、警告されるのです。
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クリスチャンと悪魔憑き:
- ただし、クリスチャンが「悪魔に所有される(悪魔憑き)」ことはないとされています。なぜなら、キリストにある者は「キリストと一つであり、新しい主人を持ち、新しい創造物」であるため、悪魔に所有されることはないからです。
- しかし、上記のように、影響や抑圧、嫌がらせを受ける可能性はあります。
要するに、ネクロマンシーが禁じられたのは、それが虚しい行為だったからではなく、その有効性によって人々が悪しき超自然的存在と接触し、欺かれ、危険にさらされるのを神が防ぎたかったからです。これは、罪や誘惑に身を委ねるなど、特定の人間的行動が悪の勢力の「勧誘」となり、彼らの影響を招き入れるという、より大きな聖書的理解の一部なのです。
創世記3章の蛇の位置づけ
提供されたソースに基づくと、「神と闇の勢力との関係」というより大きな文脈において、創世記3章の蛇について以下の点が述べられています。
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「サタン」という呼称について:
- ヘブライ語聖書において、創世記3章の蛇は一度も「サタン」と呼ばれていません。
- 「サタン(hasatan)」という言葉は、本来「敵対者」または「告発者」を意味する職位または役割を指します。ヨブ記1章と2章、およびゼカリヤ書3章に登場する「サタン(hasatan)」は、神の「神聖な会議(Divine Council)」の一員であり、神に情報を提供する役割を担う存在です。彼はヨブの誠実さを問い、神の知識と誠実さに疑問を呈することで一線を越えましたが、これは彼が自分の職務を遂行していた結果であり、創世記3章の反逆者とは異なる存在です。
- しかし、第二神殿時代(旧約聖書と新約聖書の間の期間)および新約聖書においては、創世記3章の反逆者(蛇)が「サタン」という言葉で呼 ばれるようになります。これは、その反逆者が神の意図に「敵対」し「反対」したという行為から、この言葉が彼に「自然な形で」当てはめられたためです。
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創世記3章の蛇の正体と役割:
- 創世記3章の蛇は、神に敵対する存在として登場します。
- 第二神殿時代以降、この創世記3章の存在を指すために、ヘブライ語聖書には登場しない多くの言葉が使われるようになります。例えば、「マサマ(Masama)」(破壊の存在)、「ベリアル(Belial)」(無価値な者)、そしてギリシャ語の「ディアボロス(Diabolos)」(中傷する者)から派生した「悪魔(devil)」などです。ハイザー博士は、これらの呼称は「彼にふさわしい」と述べています。
- 創世記3章の反逆は、旧約聖書における3つの超自然的な反逆の一つとして位置づけられています。他の2つは創世記6章(「神の子ら」の堕落)とバベルの出来事(申命記32章に詳述)です。これらの反逆は、世界に存在する「悪と堕落」の根源を説明するために重要であるとされています。
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神と蛇(闇の勢力)の関係:
- サタン(創世記3章の反逆者を含む、神に敵対する超自然的な存在全般)は創造された存在です。
- 神は彼らを「雇っていない」と強調されています。彼らは神に敵対しており、神の目的を損ない、破壊しようとします。
- 神は悪の勢力を「必要とせず」、彼らを「利用することもない」とされています。
- 救いの計画(受肉)は人間を対象としており、堕落した超自然的な 存在(天使や悪魔)は対象ではありません。これは、神が人間を「自身の似姿」として創造し、彼らとの契約関係を重視しているためです。
- サタンや他の悪の勢力は、福音の進展を妨げ、信者の生活を混乱させることで、神の王国が拡大するのを遅らせようとします。彼らが最も恐れるのは、神の王国が成長し、「異邦人の満ちる時(fullness of the Gentiles)」が成就することであり、それが彼らの滅びにつながるからです。
このように、創世記3章の蛇は、神の創造と計画に最初から敵対した存在であり、後に「サタン」として識別される、神の支配とは完全に切り離された敵対勢力の一員であると位置づけられています。神は彼らを操るのではなく、彼らが自らの反逆的な性質に基づいて行動することを許しつつ、最終的には自身の計画によって彼らを打ち負かすことを目指しています。
悪魔とは何か?
Dr. Michael Heiserの主張によると、「悪魔(Demons)」とは、より大きな概念である「闇の勢力(Powers of Darkness)」の一部を構成する特定のカテゴリーであり、比較的低いレベルの存在として位置づけられています。
Heiserの視点から見た悪魔の主な特徴と文脈は以下の通りです。
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起源:三つの超自然的な反逆 Heiserは、超自然的な悪の存在、そして悪魔の起源を、旧約聖書、特に創世記1章から11章に記述されている三つの超自然的な反逆にまで遡ると主張しています。この視点は、他の悪魔に関する書籍では見られない独自のアプローチだとされています。
- 創世記3章の反逆: Edenにおける蛇の反逆です。この蛇はヘブライ語聖書では一度も「サタン」とは呼ばれていませんが、第二神殿時代以降、その反逆的な性質から「敵対者」を意味する「サタン」という言葉が適用されるようになりました。
- 創世記6章の反逆: 「神の子ら(Watchers)」が人類を堕落させるために地上に降りてきた出来事です。この堕落は、ユダヤ教の伝統において悪魔と結びつけられることがあります。
- バベルの反逆(申命記32章に詳述): 人類が神の命令に背き、自らの名を高めようとした結果、神が諸国民を「神の子ら」(他の超自然的な存在)に割り当て、神は人類との関係を一時的に断ち切ったとされます。これらの割り 当てられた存在(神の子ら)はやがて堕落し、諸国民に混沌をまき散らす存在となったと考えられています。
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神との関係性
- 悪魔を含む闇の勢力は、創造された存在です。
- 彼らは神に反逆している存在であり、神の「給与台帳」には載っていません。神は彼らを雇ったり、自身の目的のために利用したりすることはなく、彼らは神に敵対し、神が成し遂げたいことを妨害し、破壊しようとします。
- 神は悪を必要としません。救いの計画(受肉)は、神の似姿として創造された人類を対象としており、堕落した超自然的な存在(天使や悪魔)は対象外です。
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目的と活動
- 悪魔や闇の勢力の最大の目的は、福音の進展を妨げ、神の王国が拡大するのを遅らせることです。彼らが最も恐れるのは、神の王国が成長し、「異邦人の満ちる時」が成就することであり、それが彼らの滅びにつながるとされています。
- 彼らは、信者の生活を混乱させ、惑わし、誘惑に屈させることで、神の目的を阻もうとします。
- 罪や自己破壊的な行動、誘惑に屈することは、悪魔の勢力による「影響(influence)」「抑圧(oppression)」「嫌がらせ(harassment)」と結びついており、これらの行為は彼らにとって人々を傷つけるための「道具」として利用されうるとされます。
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「悪魔憑き(Demon-Possession)」について
- Heiserは 、「もし『憑依』が『所有』を意味するならば、キリスト者は悪魔に所有されることはない」と述べています。なぜなら、キリスト者はキリストと一体であり、新しい創造物であるため、悪魔に所有されることはないからです。福音と復活は、この所有を打ち破るためにデザインされたものです。
- しかし、新約聖書では「悪魔に居場所を与えたり」「誘惑に屈したり」することへの警告が多く見られ、これは人間の行動と悪魔の影響、抑圧、嫌がらせとの関連を示唆しています。
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宇宙的地理(Cosmic Geography)と特定の場所
- 旧約聖書には「宇宙的地理」の概念があり、特定の場所が「大いなる悪に明け渡された」とされています。例えば、バシャン(Bashan)は「悪の震源地」と見なされ、「冥界への門」として知られていました。このような場所は、人々が超自然的な悪に身を委ねることで、「許可の場所(places of permission)」や「勧誘の場所(solicitation)」となります。
- ネクロマンシーのような特定の儀式や行為は、それが機能しなかったからではなく、実際に機能したからこそ旧約聖書で禁じられました。これらの行為は、超自然的な存在との接触を可能にし、それによって人々が欺かれ、危害を加えられるリスクがあるため、神はこれを禁じたのです。
結論として、Heiserにとって悪魔とは、神に反逆し、神の目的を妨害しようとする、歴史的に特定の超自然的な反逆から生じた、神の給与台帳には載っていない「低レベル」の超自然的な存在であり、人間の行動や特定の場所を通じてその影響を及ぼそうとします。
時系列
初期(マイケル・ハイザーの幼少期と回心)
- 9歳時: マイケル・ハイザー、キリスト教徒の友人と出会う。友人の家族が彼に福音に初めて触れる機会を与える。友人の母親は、夫がキリスト教徒になったために離婚したシングルマザーであった。
- 高校時代: 友人家族が通う教会を訪れ、福音を明確に聞き、信仰を受け入れる。家族の中で唯一の信者となる。両親は当初カルトに入ったのではないかと疑うが、後にそうではないと理解する。
学術・キャリアの形成
- 高校卒業後: 聖書に深く傾倒し、聖書神学を愛するようになる。学業成績が優秀で、言語に興味を持つ。
- 大学・大学院: 聖書大学、神学校を経て、旧約聖書とセム語学の大学院に進学。混乱や問題が多い分野だと考え、この分野を専門とすることを選ぶ。
- 博士号取得: ヘブライ聖書とセム語学で博士号を取得。
- 博士課程時代: 申命記32章8-9節の「神の子ら」という記述に、死海文書やセプトゥアギンタ(七十人訳聖書)との比較研究を通じて初めて出会う。これは、多くの英語訳が「イスラエルの子ら」と訳しているため、通常は見過ごされがちな箇所であった。
著書『アンシーン・レルム』と『デーモンズ』の執筆
- 『アンシーン・レルム』の出版: 超自然的な領域に関する自身の主要な神学的枠組みを提示する。この本は予想外の大ヒットとなり、13万部以上を売り上げる。
- 『デーモンズ:聖書が闇の力について本当に語っていること』の執筆: 『アンシーン・レルム』で提示した主題を深掘りし、悪魔のテーマに焦点を当てる。この本は、旧約聖書における3つの超自然的反乱(創世記3章、創世記6章、バベル(申命記32章8-9節))の視点から悪魔学を論じる、ユニークなアプローチを取る。
ハイザーの神学的見解の展開
- 3つの反乱の強調: 世界の混乱と悪の根源を、エデンの園(創世記3章)、創世記6章の「神の子ら」の堕落、バベル(創世記11章と申命記32章)における神の諸国民への超自然的存在の割り当てという3つの主要な超自然的反乱に起因すると説明する。
- バベルの塔の解釈: バベルの塔の出来事を、神が人類との関係を一時的に断ち切り、諸国民を他の超自然的な存在に割り当てた出来事として解釈する。これが偶像崇拝の起源となる。
- 「デーモン」の定義: 悪魔(デーモン)を特定の、比較的低いレベルの「闇の力」のカテゴリとして定義し、すべての超自然的な敵対勢力が悪魔であるわけではないと述べる。
- パウロの神学との関連: パウロが「権威と支配」について語る際、申命記32章のバベルの出来事に由来する地理的支配の概念に基づいていると説明する。
- 異邦人への使徒としてのパウロの宣教: パウロの異邦人への宣教を、申命記32章の神学的枠組み(神が諸国民を割り当てた)の中で、イエス・キリストを通して彼らを真の神のもとに呼び戻すというミッションとして位置づける。
- 霊的戦いの定義: 霊的戦いを、神の王国(信 者の数)を増やすことで敵対勢力の王国を減少させること、すなわち大宣教命令を果たすことであると定義する。部屋で悪魔に叫ぶことではないと強調する。
- ヨブ記の「サタン」の解釈: ヨブ記1章と2章の「サタン(ハサタン)」は、固有名詞としての「悪魔」ではなく、「告発者」「敵対者」を意味する役職名であると説明する。ヘブライ語文法に基づき、この存在は神の「給与台帳」に乗っている、神の知識と誠実さを疑った神的存在であると述べる。後の第二神殿期以降の文献や新約聖書で、創世記3章の反逆者に「サタン」という言葉が適用されるようになったと解説する。
- 天使の贖いの可能性: ヘブライ書2章の議論に基づき、神の救済計画は人間家族のためにあり、天使のためではないと結論づける。受肉は救済計画において不可欠であり、神が人間となったのは人間を贖うためである。
- サタンと日常のキリスト教徒: サタンが個々のキリスト教徒の日常生活に直接関与することは稀であると示唆する。人間は自身の罪と堕落によって自滅する能力を十分に持っているため、サタンが常に関与する必要はないと考える。サタンの主な関心は、大宣教命令の達成を遅らせることにある。
- 罪と超自然的存在の引き寄せ: 罪、不適切な娯楽、ポルノグラフィーなどが、信者の生活に闇の勢力の影響や抑圧を引き寄せる可能性があると警告する。
- キリスト教徒の悪魔憑き: 「所有される(possessed)」という意味での悪魔憑きは、キリストにある者には起こりえないと断言する。信者はキリストに属しており、新たな主人を持つためである。しかし、「影響(influence)」や「抑圧(oppression)」は起こり得るとする。
- 超自然的関与の場所: バシャン(カエサレア・フィリピ)のように、歴史的に偉大な悪と関連付けられてきた場所が存在し、そこに超自然的な悪が根付いていると考える。死者の術やその他の禁止された行為は、効果がないからではなく、機能するからこそ禁止されていると述べる。
- 執筆中の個人的経験: 本の執筆中に超自然的な現象は経験していないと述べる。自身の態度は「誘引者(solicitor)」とは対極にあると語る。
- UFOや心霊主義への関心: UFOや心霊主義のような、聖書的世界観と唯物論的ダーウィニズムの中間にある代替の世界観に関心を持っている。これは、これらの世界観を抱く人々に、聖書の世界観をより学術的かつ理解ある形で提示するためである。
主要関係者
マイケル・ハイザ ー(Michael Heiser)博士:
- 本書の著者であり、聖書学者。
- 幼少期に信仰を持たず、9歳で出会ったキリスト教徒の友人とその家族の影響で高校時代にキリスト教に回心。
- 旧約聖書とセム語学で博士号を取得。
- 『アンシーン・レルム』と『デーモンズ:聖書が闇の力について本当に語っていること』の著者。
- 旧約聖書における3つの超自然的反乱(創世記3章、創世記6章、バベル)の視点から悪魔学を論じる。
- 神の給与台帳に乗っているヨブ記の「サタン」と、創世記3章の反逆者としての「悪魔(サタン)」を区別する。
- 自身のウェブサイト(drmsh.com)やSNSで活動している。
マイケル・ハイザーの友人:
- ハイザーが9歳の時に出会ったキリスト教徒の少年。
- 彼の家族、特にシングルマザーの母親を通して、ハイザーは初めて福音に触れる。
神(The Most High/Yahweh/Lord):
- 創造主であり、イスラエルの神。
- 諸国民を他の超自然的な存在に割り当てたバベルの出来事の主体。
- 人間の堕落と反抗を予見しながらも、人間の自由意志を尊重し、人間との契約を結ぶ。
- 人類を贖うために人間として受肉する計画(イエス・キリスト)を持つ。
- 悪の勢力が自身の「給与台帳」には乗っていないとされている。
- 最終的に諸国民を取り戻し、闇の勢力を滅ぼす。
サタン(Satan / The Devil / The Adversary / The Accuser):
- 創世記3章の反逆者としての「蛇」。
- 第二神殿期以降および新約聖書で「サタン」という呼称が適用され るようになった。
- 「告発者」「敵対者」を意味する。
- 神に敵対し、人間の生活に混乱と破壊をもたらそうとする。
- 霊的戦いにおいて、福音の進展を妨げ、神の王国を弱体化させようとする。
- ヨブ記1章と2章の「ハサタン」とは異なる存在として説明される(ハサタンは神の給与台帳に乗る「告発者」という役職名)。
神の子ら(Sons of God):
- 超自然的な存在、または天の存在。
- 創世記6章で人間と交わり、堕落したとされる。
- 申命記32章8-9節では、バベルの出来事の後、神が諸国民を割り当てた対象として言及される。
- 詩篇82篇では、裁きを受け、人間のように死ぬと宣告されている。
- ダニエル書やパウロの書簡に登場する「支配と権威」の背後にある超自然的な知性として関連付けられる。
アブラハム(Abraham/Abram):
- バベルの出来事の後、神が諸国民を再びご自身のもとに引き戻すために呼び出した人物。
- 彼の子孫であるイスラエルを通じて、すべての国民が祝福されるという契約の対象。
ヨブ(Job):
- ヨブ記の主人公。
- 神の忠実な僕として描かれるが、ヨブ記1章と2章で「ハサタン」の挑戦により試練を受ける。
- 彼の苦難は、天の領域で神と「ハサタン」の間で起こった出来事の結果である。
パウロ(Paul):
- 新約聖書の使徒。
- 「支配と権威」についての神学を、申命記32章の世界観に結びつける。
- 異邦人への宣教を通じて、彼らが真の神のもとに戻ることを目指 した。
イエス・キリスト(Jesus the Messiah):
- 神が人間として受肉した存在。
- 人類の救済計画において不可欠な存在。
- すべての契約を完璧に果たし、諸国民を神のもとに引き戻す。
- 彼の死と復活は、罪と死の力を打ち破った。
マイケル(Michael):
- ダニエル書に登場するイスラエルの「君(prince)」である超自然的存在(おそらく天使)。ペルシャの君やギリシャの君と対立する。
テラ(Terah):
- アブラハムの父。
- ヨシュア記で偶像崇拝者であったことが明かされる。
ペルシャの君(Prince of Persia)とギリシャの君(Prince of Greece):
- ダニエル書に登場する、世界帝国(ペルシャとギリシャ)の背後にいる敵対的な超自然的存在。
ラファエル(Raphaim):
- 旧約聖書に登場する巨人の氏族。
- バシャン地域に最後に残っていたとされている。
ベイアル(Belial):
- 第二神殿期以降の文献で、悪魔的な存在を表す言葉として使われる「無価値な者」を意味する言葉。旧約聖書には登場しない。
マサマ(Masama):
- 第二神殿期以降の文献で使われる、破壊者や告発者を表す言葉。旧約聖書には登場しない。
ディオボロス(Diabolos):
- 新約聖書で「悪魔(Devil)」と訳される、ギリシャ語の「中傷する者」を意味する言葉。