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「脳=フィルター」説の誤謬

前置き

精神世界では「脳=フィルター」説がはびこっている。その一部は以下でも取り上げてきた。この「脳=フィルター」説が破綻していることを説明する。

Jeffrey Kripal の仮説:幼児期の虐待やトラウマ → 脳のフィルター機能を一部解除 → 日常世界を超えたリアルな世界の扉が開く → 超常体験/超常現象

SMiles Lewis のヨタ話:夢や幻覚薬物は脳のフィルター機能を解除するから、日常的知覚を超えた真の実在の世界を体験できるのだ

まるで脳のフィルターが外れてコミュニケーションができるようになったかのように。 そして彼は、脳からフィルターが消えることが、臨死体験と同じであることを示している。 ご存知のように、彼は臨死体験を長い間研究してきた人物だ。 彼は自分のオフィスにある、まだ手をつけていない症例を何例も見せてくれた。 (00:15:32)

ref: ❑ Richard Martini:虐殺の被害者ですら、その人生を自ら選択して生まれてきた (途中 2) (2023-09-30)

この文書によれば、厳密な用語の構造上、固体物質は単に存在しない。 真実は、あなたの周りの世界、あなたが味わい、触れ、聞き、嗅ぎ、感じることができるすべてのものは、脳によって生み出された一種の幻想である。 しかし、脳そのものはどうだろう? 脳は意識を生み出さない。 あなたは脳ではない。 あなたは永遠のエネルギーのシステムであり、周波数の複合体なのだ。 (00:05:37)

脳は、あなたが物理的な領域を経験できるように、あなたをフィルターし、制限し、条件づけるものだ。 脳と身体を自分自身としてではなく、乗り物のように考えるのだ。 おかしいと思うだろうか? 脳神経外科医マイケル・エグナーや彼のような多くの人たちは、脳に関する研究により、脳が意識を創造することはあり得ないと結論づけ、唯物論を捨てて観念論を唱え、現実は物理的なものではなく、精神的なもの、非物質的なものだと信じている。 (00:06:06)

ref: ❏ CIA の機密解除文書に登場したオカルト文献、Monroe Inst. の関与 (2024-06-19)

「脳=フィルター」説とは

最初に「脳=フィルター」説を簡単に説明する。まず、

  1. 個々人の日常意識を「個我意識」、
  2. それを超越した宇宙的な意識を「超意識」

と以下では名付ける。多くの精神世界の 信者/ファン/マニア はこのふたつを区別せず、ごちゃ混ぜにして融通無碍に扱っている。そのため、彼らは「脳=フィルター」説が破綻している事に気づいていない。

さて、「脳=フィルター」説とは

  • 超意識は脳の産物ではなく、
  • 超意識は非局在(non-local)であり、
  • 時空間という枠組みを超えた本質的実在が超意識なのだ

といった主張を指す。喩えると、

  • 超意識が放送局なら、脳はラジオ受信機や TV 受像機に相当する、
  • ラジオ受信機は、特定の受信周波数を選択し、それ以外の周波数をフィルターで排除することによって特定の放送局の信号を受信する、
  • 個々人の脳もまた、時空間の枠組みを超えて数多に偏在する超意識の中から特定個人の成分だけを受信し、他の成分はフィルターで排除している、
  • さらに、特定個人の超意識成分の中でも日常的機能だけを脳は受信し、超越的・超常的な超意識の機能は脳のフィルターが排除している

といった考え方が、「脳=フィルター」説。

「脳=フィルター」説は破綻している

最大の矛盾は、「脳=フィルター」説が正しければ、つまり、

  • 超意識は脳の産物ではなく、
  • 超意識は非局在(non-local)であり、
  • 時空間という枠組みを超えた本質的実在が超意識

なのであれば、

  • 我々自身(=個我意識)は超意識ではなく、超意識が脳を経由させて派生させた「副産物」(*1)であり、
  • 我々自身は個我意識しか持たず、超意識は持たない
  • さらに我々は死ねばその存在が完全に消え去る

ことになる。先の比喩で言えば、

  • 超意識が放送局なら、脳はラジオ受信機や TV 受像機に相当し、
  • 我々自身(=個我意識)はラジオ受信機から出る音声や TV 受像機に映る映像であり、
  • ラジオ受信機や TV 受像機が壊れれば(=脳機能が停止すれば)、音声や映像(=個我意識)も消え去る

ということになる。これは、精神世界の 信者/ファン/マニア の信念の真逆となるのだが、超意識と個我意識をごちゃ混ぜにしている彼らはそれに全く気づいていない。

要するに、超意識は(個我意識が生み出した)幻想であり実在しない。実在するのは脳神経系とその膨大なニューロン網の活動の総体の別名(=個我意識)だけ。

膨大なニューロン網の活動が個我意識という「意識」を持つのは、LLM(大規模言語モデル)が複雑なニュアンスの文章の意味を「理解する」のと程度の差はあれども本質において共通するものがある。

(*1)

個我意識が脳の産物ではなく、脳は単なるフィルターならば、個我意識は脳を介さずに感じることができ、思考することができる筈だが、そのような現象は全く生じていない。具体的に言えば

  • 全身麻酔の間、全く個我意識が無くなり、その間の記憶も皆無

という現象は我々の個我意識が脳神経系の「副産物」であることを示している。

さらに、赤子が徐々に個我意識を発達させ、体の操作を覚え、言葉を覚える過程は「脳=フィルター」説に適合しない。赤子は脳が未発達なゆえ、フィルター機能も未発達な筈。そうなると赤子は

  • 他の個我意識とも同調・混信しやすく
  • 超意識の超越的・超常的な機能

を発揮できる筈だが、全くその兆候はない。その上、フィルター機能に相当する脳の機能は何一つ、発見されていない。

要するに、大脳生理学の膨大な知見や臨床データは「脳=フィルター」説を否定している。

履歴

(2024-07-15) 作成

(2024-07-16) markdown 記法の微修正